ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法(HRT)とアンチエイジング
~更年期世代の方に知ってほしいこと~
1. HRTとは?
ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy, HRT)は、更年期に低下する女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)を補う治療です。
目的は 更年期症状(ほてり・発汗・気分の変化など)を和らげること、さらに骨粗しょう症による骨折を防ぐことです【North American Menopause Society 2022】。
2. アンチエイジングとの関係
「若返り」や「長生き」のためにHRTを続けたい、というご相談もあります。しかし、“アンチエイジング目的”での使用は国際的に推奨されていません。
大規模研究(Women’s Health Initiative, WHI)でも、HRTを長期に使っても寿命が延びるわけではないと示されています【JAMA 2017】。
ただし、閉経後10年以内・60歳未満で開始した場合には、心血管の健康や骨の維持に役立つ可能性があります【NAMS 2022】。つまり「若返り薬」ではなく、「症状を和らげ、健康寿命を支える治療」と考えていただくのが正確です。
3. リスクと安全性
HRTにはメリットとデメリットがあります。
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メリット:ほてり・発汗の改善、腟の不快症状の改善、骨粗しょう症予防
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リスク:乳がん(特にエストロゲン+黄体ホルモン併用)、血栓症、脳卒中など
ただし、経皮パッチやジェルなどの剤形を選ぶことで血栓リスクを減らせることもわかってきています【ACOG 2020】。
4. 美容への効果は?
皮膚の弾力や水分量が多少改善する報告はありますが、しわを大きく減らすような効果は明確ではありません。美容目的の「若返り治療」とは区別して考えましょう。
5. まとめ
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HRTは 更年期症状の改善と骨の健康維持に有効。
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「アンチエイジング薬」ではなく、健康寿命をサポートする治療。
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適切な年齢・体質・リスク評価のもとで、最小限の用量を必要な期間だけ使うことが大切です。
更年期症状とは?
更年期は、女性の卵巣機能が低下して女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少する時期です。
この変化によって、体や心にさまざまな症状が出てきます。
主な症状
1. 血管運動神経症状(ホットフラッシュ)
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顔のほてり
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大量の発汗(特に夜間)
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動悸、のぼせ、寒気
2. 精神神経症状
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イライラ、不安感、抑うつ気分
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集中力の低下、物忘れ
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睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に目が覚める)
3. 身体症状
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倦怠感
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肩こり、頭痛、めまい
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関節痛、手足のしびれ
4. 泌尿生殖器症状(GSM:閉経関連泌尿生殖器症候群)
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腟の乾燥感、性交痛
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尿の回数が増える(頻尿)
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尿漏れや尿路感染を繰り返しやすくなる
5. 長期的に現れる影響
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骨量の減少(骨粗しょう症リスク↑)
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動脈硬化の進行(心筋梗塞・脳梗塞リスク↑)
📌 参考文献
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North American Menopause Society. 2022 Hormone Therapy Position Statement.
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Manson JE, et al. Menopausal Hormone Therapy and Long-term All-Cause and Cause-Specific Mortality: The Women’s Health Initiative Randomized Trials. JAMA. 2017.
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ACOG Committee Opinion No. 565: Postmenopausal Estrogen Therapy: Route of Administration and Risk of Venous Thromboembolism. 2020.










